Wavesfactoryの『Trackspacer』は、ミックス時に発生する「トラック間での特定の周波数帯域の被り(マスキング)」を解消する際に活躍してくれるダイナミクスプロセッサープラグインです。
いわゆるダイナミックEQによる処理や、コンプによるサイドチェインのような役割を果たしてくれます。
例えば、
・ボーカルをしっかり聞かせたいけれどギターやピアノが邪魔をしている
・ベースの帯域がキックを邪魔している
など、聞かせたい楽器の音域に被っている他のトラックの音域を抑えこむときに便利です。
楽曲のジャンルを問わず、スッキリとしたミックスに仕上げるためにはトラック間の周波数の被りを管理するのは重要。
自分のミックスでは音圧が稼げない…というときや、ミックスが濁って聞こえる…という悩みがあるのなら試してみて欲しいプラグインです。
コンプレッサーでもサイドチェインやダッキングの処理は可能ですが、周波数帯域を指定して手軽に細かな設定できるのが『Trackspacer』の魅力です。
- シンセ・ピアノ・ギターなどの上モノがボーカルを邪魔しないようにミックスしたい
- ベースとドラムの音かぶりを解消したい
- 任意のトラックの音抜けを良くしたい
Trackspacerの特徴
『Trackspacer』は名前の通り、ミックス時に優先して聞かせたいトラックのために周波数帯域にスペースを作るプラグインです。
ボーカルトラックと、ボーカルの音域と被りやすいピアノやシンセ、ギター間で使用すればボーカルをしっかり聞かせるミックスに仕上げられたり、キックとベースなど近い帯域同士の楽器に使用すると、キックとベースのどちらの音を優先的に聞かせたいかの棲み分けが可能。
さらには、ギターソロをしっかり聞かせるためにバッキングギターをダッキングさせたり、メインボーカルをより良く聞かせるために、コーラス・ハモリのトラックをダッキングしたりなど、活躍の場面は多岐に渡ります。
Trackspacerの使用例を挙げると、
- ボーカルの周波数に被っているギター(ボーカルを聞こえやすくする)
- ボーカルの周波数に被っているピアノ(ボーカルを聞こえやすくする)
- ギターソロとバッキングギター(ギターソロを聞こえやすくする)
- ドラム(キック)とベース(キックを聞こえやすくする)
など、帯域が近い楽器同士に優先順位をつけて棲み分けることで、聞かせたいトラックを聞きやすくミックスできます。
下記の動画は、TrackSpacerを使用し、ボーカルミキシングするチュートリアルビデオです。
上記の動画でわかるように、「Trackspacer」はボーカルをより聞こえやすくするために、帯域に隙間を作れる、とも言い換えられます。
32バンドのダイナミックイコライザーを備えており、大まかなセッティングでも手軽にトラック間のマスキングの問題を抑え込んでくれます。
Trackspacerの使い方
「Trackspacer」の各パラメーターは下記のような設定が可能です。
- AMOUNT:リダクション量を決める
- LOW CUT:設定した値以下の周波数に影響を与えない
- HIGH CUT:設定した値以上の周波数に影響を与えない
- FREEZEボタン:リダクションを固定する
さらに、アナライザー画面の右下にある○をクリックすると、画面上部にアドバンスパネルが表示されます。
- PAN:適応させる定位の設定
- L/R ・M/S:適応させる対象を選ぶ。(通常はL/R)
- Attack:リダクションし始める速さを設定
- Release:リダクションを戻す速さを設定
- Sidechain:ONにするとサイドチェイン入力が得られるだけなのでA/Bテストのように使う機能。通常はほとんど使用しないと考えてよい
アドバンス画面のパラメーターも含めると、設定可能な項目が多くありますが、「Trackspacer 」の使い方は非常にシンプルです。
- 音かぶりを発生させているトラック(優先順位が低いトラック)にTrackspacerをインサートする
- 優先して聞かせたいトラックのSENDから、①で起ち上げたTrackspacerに信号を送る
- TrackspacerのAMOUNTを調整して、ダッキング量を決める
AMOUNT量は、10%~15%程度に抑えると自然に聞こえます。
ボーカルを自然に聞かせたい、というときなどはこの値から始めて調整してみましょう。
同様の効果を得られる他のプラグイン
「Trackspacer」と同様に、特定のトラックを優先的に聞かせるためのダッキングが行えるプラグインとしてSonibleの「Smart:Comp 2」があります。
「Smart:Comp 2」は2,000バンドのスペクトル処理が可能なので、音色やダイナミックスバランスを維持した細かなダッキングができます。
一方、「Trackspacer」は32バンドなのでダッキングする帯域は広め。削りたくない帯域も削ってしまっていることもあります。
必要な帯域を削りすぎないように精度の高いダッキングをするなら「Smart:Comp 2」の方が良いかもしれません。
ちなみに「Smart:Comp 2」は約43msのレイテンシーが発生しますが、「Trackspacer」はゼロレイテンシーなので作曲中のストレスを感じたくない場合は「Trackspacer」がおすすめです。
また、「SOOTHE 2」も同様に、マスキングの問題にアプローチできます。
耳障りな周波数帯を捉え、聞きやすく処理することに特化しているプラグインなので、もっと思い通りのマスキング対策を行う場合におすすめです。
「Smart:Comp 2」と同様に、特定の帯域だけにサイドチェインを掛けたいときにもおすすめです。
システム要求
【Mac OSX】
10.9 以降 (64-bitのみ)
Big Sur & M1 compatible
プラグインフォーマット・DAW:VST・ AU・Pro Tools
【Windows】
Windows7以降 (64-bitのみ)
プラグインフォーマット・DAW:VST・ Pro Tools
まとめ
『Trackspacer』は、トラック間の周波数の重なりが原因で「音が抜けてこない」というマスキング問題を手軽に軽減してくれる便利プラグインです。
自分のミックスでは、「各パートが思い通りに聞こえてこない」「音圧が上がらない」などの問題を抱えている場合は、トラック間の音域の被りが原因かもしれません。
ダイナミックEQやダイナミックコンプで対処する方法もありますが、もっと手軽に設定できるものを探している方には『Trackspacer』が特におすすめです。
トライアルバージョンも用意されているので、試さないと損なくらい便利なプラグインなので是非一度体験してみてください!
『Trackspacer』とは用途が少し異なりますが、サイドチェインに特化したプラグインが数多くあるので、サイドチェイン系プラグインを探している場合は下記のプラグインもチェックしてみてください。
【画像出典】Plugin Boutique